脳波ってそもそも何?①脳波が測ってるもの

研究室では脳波という現象を良く扱うが、後輩に脳波ってそもそもどんなものなのか伝えるための良い情報源がない問題がある。

そこで、少しずつ脳波ってそもそもどんな現象なのか、脳波を測ると何がわかるのか、どうやって解析するのか、等について書いていきたい。

一応最初に補足しておくと、なるべく分かりやすく伝えるために相当の情報を削っている。「⚪︎⚪︎という研究もある」とか「XXと聞いたことがある」とか「△△という見方もある」ということもあると思うが、それら全てについて言及・補足することはしていないのでご理解いただきたい。

脳波計ってそもそも何を測ってる?

手始めに、脳波計は脳の何を測っているのか?について説明する。これが、脳波について理解する全ての前提となるからだ。

脳について皆さんがどこまで知っているかわからないが、とりあえず脳は色々と情報処理をしている。そしてその結果を運動出力として筋肉に信号を伝達している、と言うことはイメージが付くと思う。

脳波について理解する上で大事なことは、それらの「信号」は「電気」であるということだ。

脳の中にはとにかく大量のニューロン(神経細胞)があって、それらはお互いにそれ以上に大量の配線によってつながって、ネットワークを作る。

理科室で電気回路を作って豆電球を光らせたことがあるかもしれないが、それを物凄く複雑にしたものをイメージしてもらえればいい。

皆さんの頭の中には今も電流が流れ続けている。

それでは、頭皮の上に電気を測る電極を置いたら何が起こるか。答えは脳の電気活動を測ることができる、ということになる。

凄くざっくり言えば、脳波計で測れるのはこの電気活動。ちなみに、有名なfMRIという機材では脳の血流に関わる変化を測る。だから、計測機材によって測っている活動が違い、長所と短所を補い合う必要がある。

話が逸れたが、脳波では頭皮上に置いた電極で、頭蓋骨の奥にあるニューロンの電気活動を測る。

脳波の限界

この脳波計測には、とても重要な限界がある。脳波を扱う人にとって一番大事なことであり、かつ多くの人が認識していない限界である。

それは「空間的分解能」と呼ばれる限界である。

脳の中身を想像して欲しい。一つ一つのニューロンは物凄く小さくて、1辺が1mmの箱に10万ニューロンも入っている。

一方で、脳波を測る電極の大きさは直径1cmぐらいある。つまり、電極の下、頭蓋骨の奥には少なくとも1000万~1億ぐらいはニューロンがあることになる。

1個の電極に対して、1000万以上のニューロンの電気信号が届いている。

本来であれば1000万のニューロンの活動が知りたければ1000万の電極が必要なところ、それをたった1個の電極でなんとかしていると言う状況だ。

つまり何が言いたいかと言うと、一個一個のニューロンの活動を知ることは、脳波計測では到底できないということだ。

脳波を使えば今人が何を考えているかわかってしまうんじゃないか、と考える人は結構いる。だが、上記を考えればそれがいかに難しいことが分かる。

実際、頭皮脳波で思考をデコーディングすると言うような研究は、たいてい皆さんが想像するよりも遥かに精度が低い。

さらに追い討ちすると、脳波電極と脳のあいだには頭蓋骨やいろいろな液体や皮膚や汗がある。そうすると、ただでさえ大雑把な信号がもっと分散して分かりづらくなる。これが「空間分解能が低い」と言うことだ。

脳波はとにかく空間分解能が低い計測装置である。だから、あえてはっきり言ってしまえば「脳波では大したことは分からない」。

ちなみにfMRIの空間分解能は1mm前後であり脳波よりはだいぶ良いが、こっちは時間方向の精度が悪いと言う問題があったりして一長一短である。

脳波で何が分かるか

脳波は世間で思われているほど大したことは分からない。それでも僕は脳波が面白いと思っている。

それについて共有するためには、脳の中で起きている興味深い現象について理解してもらう必要がある。

それはいわゆるニューロンの同期活動、シンクロである。

ニューロンは基本的に一個一個が独立に電気信号を受け取ったり送ったりする細胞である。が、ニューロンを2個、3個、…と大量に集めてきて、うまい具合にそれらを配線すると、なぜかそれらが同期的な活動を示すようになる。

要はシンクロしてリズミカルな電気活動をするということだ。

イメージとしては、海面が大きな波を作り出したり、大量のホタルがばらばらに明滅していればいいところなぜかタイミングを合わせて明滅するようになったりするのと同じである。

不思議なことにニューロンも、10万、100万、…と大量に集まると同期的なシンクロ活動をするようになる。

そんなことをして脳にとって何かいいことがあるのか?については後述するとして、とりあえずそういう神秘的な現象がニューロンにはある。

そして、このシンクロ活動こそ、私たちが頭皮に置いた電極を使って計測しているものである。

脳波計測では、ニューロンの神秘的な同期活動を計測することができる。

このシンクロ活動のことを「神経振動(=Neural oscillation)」と呼ぶ。

特に英語においてBrain waveという言葉を使うことは専門的にはあまりなく、大抵Neural oscillationというワードを使う。なお、脳波計測装置を指すときはElectroencephalogram (EEG)という。

今後のテーマ

長くなってきたので一旦ここまでで区切ります。

他に、アルファ波やベータ波とは何か、等書きたいことがあるので時間があるときに書く予定。

優先的に書いて欲しいことがある人はTwitter (@deriba9)のDM等にリクエストいただければ気が向いたときに書くかもしれません。