難しい英文をちょっとだけ読みやすくするWebアプリを作りました(NowReader)

NowReader

※日本語(。区切り)にも対応しました。

難しい英語論文などを読んでいると分量の多さに圧倒されますよね。

慣れている題材ならいいんですが、親しみのない題材だと特に圧倒されて集中力がなくなってしまうという問題があります。

そこで最近、これを改善して難しい英文でもなんとか集中力を持続できるようにする簡単なWebアプリケーションを作って自分で使い始めました。

元々自分用の道楽のようなもので随所適当ですが、せっかくなので公開しておくことにしました。

画面上に今読んでいる一文のみを表示し、それ以外の情報を一切表示しないというツールです。

SOUND OFFモードとSOUND ONモードがあります(後述)。

こちらから利用できます。

100行ちょっとの誰でも作れるコードですが、案外集中力と理解度を上げる助けになっているような実感があります。興味があれば使ってみてください。

ちなみに自分にとって簡単で読みやすい文章だとあまり意味がありません。また、ADHD傾向があるなど注意力が弱い人の方が効果を感じられる気がします。

名前があった方が便利なのでNowReaderと呼んでいます。

使い方

①読みたい英文を外部サイトなどからコピーします(複数行〜複数段落)

②それをNowReaderにペーストして[SOUND OFF]または[SOUND ON]をクリックします

[SOUND ON]にすると音が流れます。BGMに加えて、行を進むごとにSEが流れます。個人的にONがおすすめで、大分集中力が持続するようになる体感があります(後述)。

③今フォーカスしている一文のみが黒字で表示されます。他の情報は一切表示されません。

④読んで理解したと思ったら”L”を押すと次の文に進みます。

⑤前文に戻りたいときには”J”を押します。

⑥新しい英文を入力する際にはページを更新します。

メカニズム

馬鹿みたいにシンプルですが、一応発想に至る背景があります。

論文でもないのでロジックはガバガバですが。

1. 不要情報はボトムアップに注意を引きつける

目の前の参考書に注意を向けて勉強をしている際にラインの通知が目に入った場合、そちらに注意が引きつけられますよね。そうすると当然集中力が削がれます。

こんな感じで、不要情報は私たちの注意を引きつけます。

ここまで極端ではなくとも、同時に複数の文に直面すると、意識的であれ無意識的であれ今読んでいる以外の文に注意が引きつけられることが考えられます。

おそらくADHDなどの場合はこれがより顕著なのではないかと推測します。

NowReaderではそのような阻害情報を極端に減らし今まさに読んでいる一文のみを表示することで、ボトムアップに注意が引きつけられる可能性を極力排除することができます。

2. 不要情報がワーキングメモリ容量を消費する

また、不要情報(この場合で言えば今まさに読んでいる文以外の文など)は無意識のうちに私たちの脳に侵入し、ワーキングメモリ容量を圧迫していると考えられています(Vogel et al., Nature, 2005など)。

ワーキングメモリ能力は一般に知能や学業成績とよく相関し、それが阻害されるとさまざまな認知処理に不具合が生じると思われます。

そのため、難しい英文がどっと押し寄せるような状況では、常にフォーカスしている文以外の情報によってワーキングメモリが占領され、文章理解に悪影響がでることが予想されます。

ちなみに1と2は似たような話で、実際注意とワーキングメモリは相互に深く関係していることが良く報告されています(Panichello and Buschman, Nature, 2021など)。不要情報はボトムアップに注意を引きつけるために、ワーキングメモリ容量を占領するというような話なのだと思います。

3. 報酬を得る頻度を増やせる

ゲームやギャンブルは無限に没頭できるのに、なぜ難しい文章を読んでいる時には集中できないのでしょうか。

これは報酬が得られる頻度に原因がある可能性があります。

スロットなどのギャンブルでは数秒間に一度という高頻度で報酬(フィードバック)が得られ、これによって、集中力が途切れることなく没頭できるという説があります(Harris and Griffiths, J Gambl Stud, 2018など)。

一方で文章を読むときはどうかというと、明確に報酬が得られることはあまり多くありません。

大抵は一章であったり一冊という区切りごとに「読んだ!」という達成感が得られるものですが、そこまでには少なくとも数分、長ければ数時間以上かかります。

ゲームと比べて明確に報酬を得る頻度が少ないのです(読んでいて楽しい時というのは、おそらく一文ごとに「なるほど!」とか「分かる!」というような報酬感があるが、難しい文ではそれも少ないと考えられる)。

NowReaderでは、一文ごとキー入力をし次の文に進むため、そのたびに「読んだ」という達成感を得ることが容易になるかもしれません(ガバガバ理論です)。

4. 自主的な選択が認知機能を加速する

また、自分が好きな研究に「自主的な選択が前頭葉(ACC)の活動を高める」というものがあります(過去記事:【論文】結局なぜ自主性は大事なのか?)。

NowReaderでは、一文ごとにキーを押して次の文に進むか、前文に戻るかというちょっとした選択を行います。

これがどの程度自主的な選択として脳活動に影響するのかは未知ですが、このような選択を一文ごとに行うことで、微妙に集中力や学習効率が向上する可能性はあります。

5. 一文ごとに理解度をメタ認知できる

普通に文章を読んでいると、今の文を理解していなくても目が滑るように次の文に進んでしまうことがあります。

NowReaderでは一文ごとにキーを押して次の文に進むという処理を挟むことで、現在の文を理解しているかメタ認知するステップを挟むことになります。

使っている体感的にこれは結構重要で、普通に難しい文章を読んでいると「あれ、なんか理解できてない」となるタイミングがありがちなんですが、NowReaderではどこで理解できなくなったかが明確にメタ認知できます(=対応が容易になる)。

6. 音が流れることについて

[SOUND ON]にすると音が流れますが、これにはちょっとした意図があります。

「音が流れる」なんていうのは本質じゃないと思っていたのですが、実は私たちはちょっとした映像や音のエフェクトによって全然集中力が変わるのではないか、と最近思っています。

例えば人気のYoutuberやゲーム実況者を見ても、声が特徴的で聞いていたいと思う人ばかりですし、彼らはちょっとした効果音を驚くほどうまく使っていますよね。

また、麻雀や将棋をやりたいと思うのも、牌や駒の手触りや、アプリの場合は美麗な映像や荘厳な音声エフェクトのおかげである面が多分にあることに気付きます(例えば紙で自作した麻雀をやろうとはあまり思わない)。

そこから、ちょっとした映像や音のエフェクトは予想以上に私たちの集中力に寄与するのだと気づき、NowReaderにも取り入れてみました。

SOUND ONモードにすると、ちょっとしたBGMが流れるのに加え(実はBGMは集中力に悪影響を与えるという研究が多いですがモチベーションという観点においてはプラスであると考えています)、キー操作で次の文に進む際にスカッとするような音のエフェクトが流れます。

これが自分にとっては想定以上に集中力につながるようです。

おそらく、自分の行動によって爽快な音が流れることは、それ自体が結構大きな報酬になるのでしょう。

プチプチを潰していたくなることや、サンドバッグを殴りたくなるのもこういう原理ですよね。

7. 類似のサービス

後で知ったのですが、これにはFocusReaderという類似のサービスがありました。

これを使うとPDFを一行一行強調して読めるようになります。ただ、このサービスでは着目している行以外の行はグレーで表示されたまま残るため、逆にそっちが気になるような体感がありました。

また、サービスではありませんがADHD支援のアナログツールとしてリーディングトラッカーというものがあり、これにも着想を得ています(というかこれをWebで使えるようにしたにすぎない)↓参考(自分のアカウントではないです)

終わりに

自分は知能やワーキングメモリを研究していて、それを向上する方法を見つけたいと考えています。

しかし、いわゆるブレインテックと呼ばれるカッコいい技術(脳波や脳刺激etc)では、現状では期待するほど劇的な向上が思うように上げられていないという難しさがあります。

それに、これらの手法は実際に現場で使うほど浸透させるのが難しいという問題もあります。お金もかかるし、心理的なコストがかかります。

脳に電極を埋め込むような侵襲的な手法ならば明確な効果が得られるかもしれませんが、こちらはより技術的・心理的なコストが大きく、浸透するには数十〜百年単位の時間がかかる可能性があります。

一方で、今回紹介したような案外簡単な方法で、集中力や知能といったものは改善できるかもしれません。

例えばBionic readingと呼ばれる手法(外部サイト:日本語の解説記事)では、各英単語の最初を太字に変えるだけで目が滑らずに文章が読めるようになるという面白い可能性を示しています。

ヒトが文字を発明してから5000年ほど経過するらしいですが、その間ずっと石板や紙といった静的な媒体で文字は利用されてきました。

しかしここ数十年のコンピュータの発明によって、今までにない動的な文字表現が可能になっています。

これを利用した新しい可能性を探ることにも、カッコいいブレインテックに勝るとも劣らない面白さがあると感じています。

何かあればTwitter(@deriba9)のDMへどうぞ。